SSudo's Lab

須藤爽のブログです。専門は英語教育政策。重要文献のログ・感想を残していきます。

「教育政策」って誰がどうやって決めるの?

今回は、「教育政策はどのようにして形成されるのか」をテーマに、上記文献の読書メモを書いていきます。最近だと、「小学校英語導入」「大学入試英語に民間試験を導入」「共通テストに記述式を!」等が話題になりましたが(内、「小学校英語導入」のみが実現)、これってどんな経緯で話が進んでいったのか、よくわかっていませんよね。このことについて考えるうえで、やはり「政策形成のプロセス」については一度きっちり学んでおかねば! と思い、本稿を書いてみることにしました。最終的に教育政策の話に戻ってきますが、まずは公共政策学の文献を参考に、政策が形成・決定されるプロセスについてまとめていきます。

アジェンダとは何か

飲食店に入って最もワクワクすることは何か。それはお店のメニューを見ることである——というのは私だけではないだろう。何か食べたいものがあってその店に入るということもあるが、たいたいはその店のメニューをみて、食べたいものを選ぶことが多い。「あ、このハンバーグ、テレビで紹介されてたやつだ」とか「今日は寒いからもつ煮でも頼もうかなぁ」とか、その時々のブームに影響されることもあるだろう。

なんだかヘンテコな導入になってしまったが、政策決定のプロセスもこれと似ている。飲食店と同様に、政策にも ”メニュー” があり、その時々のブーム*1に応じて、何を俎上にのせるかを決める。

この政策の ”メニュー” のことを政治学では「アジェンダ」と呼ぶ。アジェンダの定義は次の通り。

アジェンダとは、政策決定者や政策決定に密接にかかわる政府内外の人々が注意を払う論点、課題、因果関係に関する知見、シンボル、代替案・解決策のリストであると定義される(Birkland, 1997, p. 8)。(秋吉他, 2015, p. 50)

したがって、ある対策が検討されるためには、まずその課題がアジェンダにのることが必要条件となる。そうして、ある課題が政策課題と認定されて初めて、政策案の形成が行われる。

「公衆アジェンダ」と「政策アジェンダ

アジェンダは、大別すると、「公衆アジェンダ (public agenda)」と「政策アジェンダ (policy agenda)」の2つに分けられる。

公衆アジェンダとは一般大衆が注目する課題のリストであり、政策アジェンダとは政策決定に関与する政府内部のアクターが注目する課題のリストである。政策アジェンダは公衆アジェンダから絞り込まれた、より短いリストであるが、一部の課題は大衆の注目を集めないうちに政策決定者に注目され、政策アジェンダにのってしまう場合もある。(同上, p. 53)

上記の2つに加え、「決定アジェンダ (decisional agenda)」と「メディア・アジェンダ (media agenda)」というのもあるらしい。

(決定アジェンダとは)政策アジェンダが意思決定に向けてさらに絞り込まれた短いリストである。課題が決定アジェンダにのったとしても、同様の課題が決定を待って列をなしているため、必ず政策出力につながるわけではないが、政策決定の対象として真剣に考慮されるという意味で、政策出力に至る可能性は高くなる。(中略)
 マス・メディア研究では、マス・メディアが報道する段階のアジェンダをメディア・アジェンダ (media agenda) と呼び、公衆アジェンダから区別することがある。マス・メディアが世論にどれほどの影響をもつかが興味の中心だからである。しかし、公衆アジェンダをとらえるのは困難であるため、公共政策研究では、マス・メディア報道を指標とする事が多い。事実上メディア・アジェンダと公衆アジェンダが同一視されてきたのである。(同上, pp. 53-54)

以上を図にまとめると、こんな感じだろうか(余計わかりにくい?)。

アジェンダ4種類

アジェンダと選挙の関係

アジェンダを左右するのは政治家だが、その政治家の行動に最も大きな影響を与えるのは選挙だ。だからこそ、アジェンダに影響する要素として、政権交代や首相交代は重要な意味を持つ。もちろんこれは教育政策にも当てはまることで、例えば寺沢 (2020) は、第二次安倍政権(2012年12月)以前と以降では、政策過程の流れが大きく異なると指摘している。

 極端な話、2000年代までは文科省内部の動きを見るだけで大方の流れを理解できた。一方、2010年代は、政策過程が複雑化する。第一に主導権を握った官邸サイド、第二にその要求の具体化を担う文科省、第三に2012年以降政権与党となった自由民主党の文教政策に注目する必要がある。その結果として、関係する政策会議も多様化した。(中略)
 この原因は、直接的には第二次安倍政権(2010年12月)以降の官邸主導の教育改革、特に同内閣に設置された教育再生実行会議(2013年1月発足)である。(pp. 110-111)

このように、政策過程の分析には、議事録の分析だけでなく、そもそもなぜその課題がアジェンダにのったのか、影響を与えた要因は何か、といったことを様々な視点から考える必要がある——ということです。重大事件・社会的指標の発表・選挙の前後を比較することの重要性はよくわかったので心がけようかと。

ただ、「政策過程を左右する要因はいろいろあるから、気をつけよう!」とだけ言われても、なんだかパッとしないと思うんですよね。例えば「○○政策に影響を与えたのは、△△と◇◇と◎◎ と考えられる」と誰かが言えば、「私は特に△△が影響を与えたと思う」とか「私はむしろ✖✖だと思う」みたいに、意見もいろいろ出てしまうような気がします。やはりここは研究者らしく ”理論” が欲しい! ってことで、次回はアジェンダを用いた政策過程の理論で有名な、キングダンの「政策の窓モデル」についてまとめていこうと思います。

*1:具体的には、重大事件(COVID-19や3.11 など)、社会指標(交通事故死亡者数や高齢化率)、選挙、政策案などがアジェンダに影響する)