SSudo's Lab

須藤爽のブログです。専門は英語教育政策。重要文献のログ・感想を残していきます。

少人数学級って意味あるの?


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リサーチクエスチョン

少人数クラス制度は、生徒の認知スキル・非認知スキルにどのような影響を与えるか? 
※ 「認知スキル」とは頭の良さのこと。本論文では、学力テストの国語と算数・数学のスコアを指標として用いている。また、「非認知スキル」とは、人間の気質や性格の特徴のことで、本論文では(ⅰ) self-control[自己統制]、(ⅱ) self-efficacy[自己効力感]、(ⅲ) conscientiousness[誠実性]、の3つを指標として測定している。

研究の背景

(1) テーマの重要性

「クラスサイズが小さいほうが、生徒の理解度が高い」という説はよく耳にするが、これを示すエビデンスはほとんどない。むしろ、多くの先行研究で、クラスサイズの効果は、たとえ効果があるとしてもゼロに近いと報告されている。クラスサイズを小さくすることは、教員の数・授業数を増やすことにつながるため、莫大なコストがかかる。にもかかわらず、あまり効果がないのであれば、他の政策にコストを割いたほうがはるかに建設的である。このような議論をエビデンスに基づき議論するためにも、良質な研究の蓄積が必要である。

(2) 先行研究の問題点

 ① 大規模調査が少ない
 ② 少人数クラス制の非認知スキルへの影響を調べたものは少ない
 ③ 多くの先行研究が1年未満のデータを使用しているため、学校や生徒に関係する交絡をコントロールできていない(=内的妥当性*1が低い)

方法

(1) ケースセレクション(事例選択の正当性)

とある県の公立小学校・中学校に通うすべての小学4~6年生、中学1~3年生。総計およそ300,000人。一都道府県のデータではあるものの、データに偏りがないと考えられるため、サンプルの代表性は高い。

(2) 処置

コントロール群:通常のクラス人数
処置群: 少人数クラス

(3) 処置の割当メカニズム

Maimonides’ ruleを活用(クラスの最大人数が40人で、41人以上になった場合、2クラス編成に変更する、というルール)。いわゆる"Natural experiment"*2 と呼ばれる手法。

(4) 結果変数の測定方法

結果変数:① 認知スキル ② 非認知スキル
①= 学力テストにおける国語と算数・数学の点数
②= 以下の項目をアンケート調査で測定:(ⅰ) self-control (ⅱ) self-efficacy (ⅲ) conscientiousness

(5) 実験の実施方法・データ収集の方法

・全国学力テスト
・アンケート調査

結果

・少人数クラスが認知スキルに与える影響はきわめて小さいことが確認された
・少人数クラスが非認知スキルの向上に貢献するというエビデンスは観察されなかった
・少人数クラスの効果は、塾・予備校に通わない生徒ほど大きかったが、その効果ですら決して大きいとは言えない。

インプリケーション

・特に「インプリケーション」として目立った記載はなし。
・本論文の記載ではないが、執筆者の一人である中室氏は、『「学力」の経済学』のなかで、少人数学級について以下のように提言している。

国内外の研究蓄積をみる限り、少人数学級を積極的に推し進める理由は見当たりません。巨額の財政赤字を抱えている日本で、「少人数学級になるときめ細かい指導ができる」などという根拠のない期待や思い込みで、財政支出を行うのは極めて危険だといわざるを得ないのです。(中室, 2015, p. 113)

本論文にこのような示唆は(私の読んだ限りでは)直接は書かれてはいないものの、調査結果から以上のような示唆を得ることはできる。

研究の限界

・本論文も含め、これまでの研究では、「教員の情報」が考慮されていない。ベテランの教員が少人数学級に無報酬で配属されたらどうなるか、また、教員を多く雇うことで、教員の質の低下を招き、悪影響をもたらすのではないか。教員の質とクラスサイズは大いに関係する可能性がある。

今後の研究の方向性

・教員の特徴、置かれている環境を変数に加え、少人数クラス制の効果を分析してはどうか。
・少人数学級は、特定の状況下に置かれれば、効果を発揮するのか。

ブログ人の感想

 少人数学級と学力の関係について扱った研究はこれまでにも見たことがあるが、「非認知能力*3」との関係を扱った研究は見たことがなく、興味深かった。確かに、非認知能力が小人数学級により育まれるのであれば、その政策にそれなりの価値があると思われる(とはいえ、「非認知能力」という用語は複数のスキルの寄せ集めのように使われている傾向があり、正直言ってそれが何をいみするのか私にはよくわからないが……)。
 しかし本研究で明らかとなったように、少人数学級は、認知的なスキルの点でも、非認知スキルの点でも、効果はゼロに近かった。「クラスの人数を減らして、生徒の理解度をあげよう!」という声は、表面上は良案のように思うかもしれないが、実際のところは、かなりコスパの悪い政策だと言える。もっと他に費用対効果の高い政策はいくらでもあるはずだ。
 ただし筆者も指摘するように、少人数学級の効果についてはまだまだ謎が多い。教員の指導力や指導環境との関係は、まだまだ研究が不足している。個人的には、教科ごとの違いが気になる。国語の少人数学級はあまり効果はないが、じゃあ、英語は? といった具合に(あくまで例です)。もっと細かく言えば、文法指導重視の授業では、少人数学級はあまり意味がないが、コミュニカティブな活動が多いクラスでは? とか(あくまで例です)。
 このようにまだまだわかっていないことは多いが、現時点でもはっきり言えるのは、少人数学級にそこまでの期待を持つのはキケン——ということだ。
 

*1:「内的妥当性」とは、<2つの変数のあいだに因果関係のあることの確からしさを意味する。研究の対象となった集団に再度同じ介入を行った場合、同じ結果が再現される程度のことだ>(中室・津川, 2017, p. 176)。例えば、「朝ごはんを食べる」→「学校の成績が良くなる」という因果関係は、「親が教育熱心」という第三の変数が関与している可能性があるため、内的妥当性は低い。

*2:Natural experiment(自然実験)とは、<法律や制度の変更、自然災害、紛争など、誰にも予想できなかった変化によって、あたかもランダム化比較試験を行ったかのような状況を作り出すことで、2つの変数の因果関係を明らかにしようとする方法>(中室・津川, 2017, p. 79)のこと。クラスの人数が40人を超えるかどうかは偶然性に左右されるため、バイアスを生じさせることなく、コントロール群と実験群を割り当てることができる

*3:「非認知能力」に関しては、シカゴ大のヘックマン教授らによる「ペリー幼稚園プログラム」が有名である。詳細は割愛するが、非認知能力が学歴・年収・雇用等に大きく影響することが指摘されている。